ALBERTONとは、19世紀末から20世紀初頭に、アメリカの産業発展の中心地の一つである、メリーランド州バルチモア郡及びその周辺に存在していた、大規模紡績会社です。
当時、アメリカ全土の綿花市場シェア70%を誇っていたこの一大産地の中でも、とりわけ中心的存在でありました。自然災害により度々壊滅的被害を受けながらも、創業者の息子であるAlbert氏により再建され、同時に工場と街の名前が彼の名前にちなみ、ALBERTONへと変わります。
ダック生地を主要品目とし、米国政府へも多く販売するなど、一時代を築きました。
その後、Albert氏はアメリカ合衆国郵政長官を勤め上げる政治家となったことからも、その事業規模がうかがえます。”U.S ARMY DUCK”は、その名の通り、第一次世界大戦の頃から米軍で採用され、現代でも広く使用されているダック生地のルーツとなります。
しかしその繁栄は大恐慌のあおりを受け、衰退していきます。1938年に他社に買収される形で、ALBERTONの社名はおろか、街の名前までもが、書き換えられる事になり、ALBERTONの名前は歴史の中に埋もれる事になります。
しかしその後、ダック生地事業は社名こそ変わりましたが、さらに拡大の一途をたどります。誰もが知るあの有名なブランドメーカーも、この工場で織られたダック生地を使用してトートバッグを作っていました。
繊維業の発達を契機に産業革命が起こり、人が集まり街ができ、鉄道が走って産業が発達し、経済成長により国がどんどん豊かになり、現代へと繋がります。普段それを意識して暮らす人はほとんどいません。
忘れ去られた時代の、主役の一つがダック生地産業であり、同時に全ての産業を支えたのがダック生地でした。そして十分に産業も経済も円熟し、人々の生活も豊かすぎるほど豊かになった今、成長を支えたライン入りダック生地の役割は終わり、その存在は歴史の中に静かに消えました。もちろん今でも産業を支えるダック生地は数多くありますが、ダック生地のラインはもう存在する必要はありません。つまりライン入りダックの持つ意味とは、失われた価値を知っている、という極めて情緒的価値
、及び産業を支えた確かな品質の証なのです。
この一度失われてしまった価値に、新たな価値を吹き込むべく、かつての時代と技術の進歩に経緯を払い、日本のファブリックプロデューサーによる生地ブランド、ALBERTON®が日本で2016年に始まりました。
立ち上げに伴い、古い書籍、資料、生地の現物など、さまざまな視点から生地の解析を行い、当時の設備環境にできる限り沿えるように織機を探し出し、メンテナンスを万全に行い、現代での環境が整えられました。そして、当時の規格のまま生地の再構築を行ってい
ます。
旧式力織機で織り上げた耳付き生地で、生地端にブルーのラインが入ります。これは縫製の際、ミシンを入れる目安となるガイドでとして織込まれもので、用途別に標準寸法が細かく設定されており、そのことからも広くの分野で使用されていたことがうかがえます。
ムラ糸を使用し旧式力織機により高密度で織り上げている為、アンティーク感がありながら、強度があるのが特徴です。中でAlberton 15oz U.S. Army Duck は、当時から一般よりも高級な製品に使用されていたグレードの高い生地になります。
パラフィンワックス加工を施した生地は、高密度の撥水性に+αの撥水性を持たせており、現代のアウトドアアクティビティでも活躍します。(ALBERTON®は、日本国内及びアメリカ国内で商標を取得済みです)